研究概要 |
四国の沖の島と鹿児島県屋久島で浅海性魚類を集中的に調査するとともに、沿岸性魚類のDNA解析による個体群間・接間の解析を進め、四国南西域において稚魚調査も実施した。屋久島の調査によって200種を超える魚類が採集された。また、日本各地、台湾,インドネシア、マレーシアおよびベトナムからハタ科、アジ科、タイ科、トウゴロウイワシ科、ハゼ科魚類を採集し、各地域の個体群の形態とDNAを解析した。その結果、黒潮が地域個体群の形成に大きな役割を果たしていることが示唆された。 沖縄、高知、和歌山そして静岡から計77個体のボウズハゼを採集し、ミトコンドリアDNAの調節領域前半部(448bp)の塩基配列を分析した結果、日本に分布するボウズハゼは遺伝的に十分混合された単一集団であることが明らかになった。また、和歌山県太田川に加入する仔魚は、太田川で生まれたものばかりではなく、和歌山以南の地域で生まれたものが、黒潮による輸送を経て、太田川に加入しているものと推察された。一方、高知沖と伊豆・小笠原諸島周辺海域よりでボウズハゼ仔魚が採集された例から、本種が黒潮を使って長距離分散している事実が示された。 トウゴロウイワシ科のHypoatherina temminckiiとギンイソイワシは黒潮を挟んで異所的に分布する種であることが明らかになった。トウゴロウイワシは、本州周辺とインド・太平洋の熱帯域に生息する個体で大きな遺伝的隔離がみられ、それぞれ別種とするのが妥当と考えられた。すなわち、黒潮を挟んで接分化がみられることになる。 四国南西域の稚魚調査によって、318種以上が確認され、土佐湾南西端付近には極めて多様な稚魚群集が形成されている事が判明した。総出現種数の57%は熱帯性種であった。土佐湾における稚魚群集の多様さは、暖環境を形成する黒潮との関連性が強いといえる。
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