研究概要 |
乾燥地の灌漑農業地域における灌漑排水管理の改善を目的にして,地域の物質動態(土地・水環境の形成メカニズム)の新たな分析・評価手法の開発を進め,既存の水文モデルと灌漑地区水収支モデルの改良に取り組んだ.継続して,トルコ地中海地域のセイハン川下流デルタを主な調査対象地域とした. ストロンチウムの安定同位体を用いた灌漑水,浅層地下水,排水の分析により,沿岸部の塩害地域における塩類の起源が海水浸入に由来するかどうかを判定できるようになった.地表部ではストロンチウムの濃度や安定同位体比とナトリウムなどの塩害物質濃度に相関が見られた.分析結果を総合すると,灌漑区最下流で最も塩水浸入の影響を受けそうな沿岸部において土壌を塩性化させているのは,海水起源の塩類ではなく,灌漑水中に含まれる塩類と土壌自体が風化した際に放出した塩類であるとほぼ結論できた.この事実は,この地域の塩害問題の理解と改善への対応策の検討への重要な情報となる. また,灌漑排水管理モデルを用いた分析により,栽培管理用水および無効灌漑が浅層地下水の変動に支配的な役割を果たしていることが明らかになった.一方,二次元地下水流動モデルを改良し,デルタの塩水侵入をより高度に再現することが可能となった.このモデルを三次元に拡張して精度の確認を現在行なっており,水管理や気候変動などの条件の変化が,地下水流動とそれに伴う塩分の移動に及ぼす影響を分析でき,望ましい管理の条件を検討できる見込みがたった. なお,トルコ東南部の東南アナトリア開発プロジェクト地域においては,新規の開発プロジェクトの進捗プロセスと土壌塩性化の進展の分析のための基礎情報を収集した.
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