研究概要 |
乾燥地域における灌漑農業地域における灌漑排水管理および塩分管理の改善を目的として,環境トレーサビリティ手法を用いて,灌漑地区の水・物質循環のダイナミクスを分析した.同時に,二次元地下水流動モデルと分布型灌漑区水収支モデルの改良を進めた.さらに,衛星データを用いて塩性土壌を同定する手法の開発を進めた. まず,同位体と元素分析からなる環境トレーサビリティ手法を用い,灌漑地区における灌漑水と地下水の動態を分析した結果,デルタ形成時に堆積した海成起源の塩類は農地土壌にはほとんど含まれないことが明らかになった.深層地下水の分析においても塩水浸入の影響は認められなかった.^<87>Sr/^<86>Srによる定量解析によって,問題となっている沿岸部周辺の塩分は海生起源ではなく,灌漑水と肥料起源の塩分が支配的であることが明らかになった. また,灌漑区への塩水浸入が二次元地下水流動モデルによって高精度で再現できるようになった.さらに,モデル改良のために,塩性化した地下水による塩類集積メカニズムについて,カラム試験を実施して,集積塩類と形成されたクラスト塩により,蒸発比が低下することを確認した. 人工衛星に搭載されたCRHIS PROBAセンサによって観測された衛星データと地上観測データを用いて土壌塩分濃度を推定した.重回帰分析の結果,衛星データと地上観測データの間には強い正の相関が認められた.とくに,本センサはメンカ畑とコムギ畑における土壌塩分濃度の探査に適していることが分かった. 本研究を通して,環境トレーサビリティ手法を用いることにより,農業地域,とくに乾燥地域の灌漑地区における水・塩分管理が,量だけでなく質(起源)においても議論できる見通しがたてられた.さらに,地下水流動モデル,分布型灌漑地区水収支モデル,衛星データによる塩分探査,などを包括的に扱うことにより,農地の水環境形成メカニズムが詳細に分析できる展望が開けた.
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