本研究の目的は、研究代表者らが分離・特性解明に成功している各種のマダニ生物活性分子(TBM)に関する最新知見を活用し、またB.gibsoniのESTデータベースも併用することによって、ガメートからスポロゾイトに至るマダニ体内の全発育期(SS期)虫体について、各種TBMと反応・結合する原虫分子の探索・同定、特性解明を展開し、最終的にこれらの組換え体複数を用いて、マダニ媒介性原虫病に特有の経発育期・介卵伝播を多段的・多重的に阻止しうる、世界初の多価疾病媒介阻止ワクチン(multi-component transmission-blocking vaccine)の実現を図ることである。 平成22年度に得られた研究成果の概要は、以下の通りである。 (1)Babesiaのガメートからスポロゾイトに至るマダニ体内の生殖期・スポロゴニー期の虫体と顕著に反応・結合するTBMとして、マダニのVgとその受容体のVgRを発見した。 (2)VgとVgRは、RNAiによって原虫媒介を完全に阻止し、抗体のワクチン効果も多大であったことから、現在、これらと結合する原虫分子の同定などの、Babesia媒介阻止ワクチンとしての応用に必要な研究を鋭意実施中である。 (3)一方、Babesiaに対する顕著な発育・増殖の阻止効果を有するTBMの探索を行う中で、細胞内寄生性のBabesiaの必須栄養源であるマダニ細胞内のバイオマスの動態に関わるTBMに興味を持ち (4)細胞内蛋白の転写、翻訳開始、翻訳後修飾、小胞体・ゴルジ間輸送に関与する一連のTBMに加えて、 (5)細胞内蛋白質のバルク分解機構であるオートファジー(AT)に関連するTBMを同定・特性解明し、いずれも世界に先駆けて報告した。 (6)これらの研究を通じて、アミノ酸シグナルによって細胞内タンパク質の動態を中枢的に制御しているTOR情報伝達経路の重要性を強く認識することとなり、新たな研究計画を起案するに至っている。
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