研究概要 |
超高齢社会を向えたわが国において、アルツハイマー病に代表される認知症患者が増加し、大きな社会問題となっている。最近の研究成果から、認知症の発症に先立ち、5年以上も前から徐々に脳回路が障害を受け、次第に脳機能が低下することが判ってきた。この時期においても、生活習慣の改善などにより神経再生を誘導することで、脳回路が修復され、認知症の発症が予防できる。こうした再生神経科学を活用した認知症の予防は、新しい予防医学技術として、一般社会からも大きな関心を集めている。脳回路を修復する神経再生の仕組みはようやく解明が進んできたが、神経再生の程度を評価するバイオイメージング技術(MRI,など)、ならびに神経再生を誘導する方法については、いまだに十分なレベルにまで研究がおこなわれていない。特に我々は、認知症の発症以前に空間記憶に関わる海馬では、脳回路機能が低下することが見出されていること。そして、神経幹細胞から新しくニューロンが生まれている現象「成体ニューロン新生」に着目し研究を行っている。新生ニューロンは、海馬回路ネットワークに組み込まれ、空間記憶の形成に寄与する。本研究において実施した動物実験の結果から、運動といった生活習慣の改善や、塩酸ドネペジルに代表されるアセチルコリンエステラーザ阻害薬の投与により、神経幹細胞が増殖・分化し、新生ニューロンの数が増加することがわかってきた。認知症の発症以前にニューロン新生を誘導し、海馬回路の再生を促し、脳回路機能を改善することは、認知症の発症予防につながると強く期待される。
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