本研究では、アルギニンに富む塩基性膜透過ペプチドをベクターとして用いる高効率細胞導入法の機序に関しては不明の点が多い。本研究では、種々のペプチド(化学的ツール)を用いて、(1)ペプチドにより誘導される細胞シグナルとアクチン重合化・マクロピノサイトーシスとの関係、(2)ペプチドのプロテオグリカンとの親和性・相互作用と細胞内シグナルとの関係、ならびに、(3)受容体の存在の可能性に関して検討するとともに、(4)アルギニンペプチドのどのような化学的あるいは構造的要因が上記の取り込み誘導に寄与するのかに関して考察する。本年度はアルギニンペプチドによる細胞内タンパク質の活性化の度合いとアクチン重合化・マクロピノサイトーシスによる細胞取り込みの効率との相関に関して検討を行ったところ、ペプチドによる細胞内情報伝達の活性化と取り込み促進は、従来考えられていたよりも非常に短時間で誘起され、また、ペプチドの投与量によって異なる取り込み機序が選択されることが新たに判明した。これらの知見は、ペプチドを用いる薬物送達が何故効率的に行われるかの本質に係わる問題であり、これを明らかにすることで本研究の成果が飛躍的に高まることが期待される。このため、顕微鏡を用いたリアルタイムでの細胞観察と生化学的手法による細胞内情報伝達の解析を併用し、これらを密接に関連づけて解釈の重要性が明らかとなった。二次元ゲル電気泳動と質量分析を使って細胞内の個々のタンパク質量の変動やリン酸化に関して検討した。研究代表者の二木と大学院学生1名が英国カーディフ大学Jones博士を訪問し、細胞内シグナル伝達とペプチドの細胞取り込み解析に関して必要な手技・情報の収集と共同研究の打ち合わせを行った。
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