1. 転写因子Prox1はリンパ管新生のマスター因子として作用することが我々のこれまでの研究で明らかとなっている。我々は静脈血管内皮細胞において発現する核内受容体COUP-TFIIがProx1の転写活性を調節することを示した。血管内皮細胞(BEC)とリンパ管内皮細胞(LEC)においてProx1はcyclin E1とVEGFR3の発現を誘導することにより、細胞増殖とVEGF-Cへの走化性を亢進する。COUP-TFIIの発現によりBECとLECにおいてProx1の作用は阻害されたのに対し、COUP-TFIIの発現を低下させるとProx1の作用はBECでは亢進し、LECでは阻害された。我々はまた内因性のProx1とCOUP-TFIIがリンパ管内皮細胞において結合すること、cyclin E1プロモーター上で複合体を形成することを見出した。以上の結果からCOUP-TFIIがリンパ管の形成と維持においてProx1と結合することにより、Prox1の機能を調節していることが示唆された。 2. 我々はマウス胚性幹細胞由来の血管内皮細胞(MESEC)においてリンパ管の成熟に重要な役割を果たすFoxC2とAngiopoietin-2(Ang-2)の発現をProx1が誘導することを見出した。さらにHoxD8の発現がProx1よって誘導されることが明らかとなった。Prox1よるHoxD8発現誘導はヒト臍帯静脈血管内皮細胞ならびにヒト皮膚由来リンパ管内皮細胞においても確認され、マウス胚由来のリンパ管内皮細胞においてHoxD8が発現していることも確認された。さらにマウス炎症性リンパ管新生モデルにおいて、アデノウイルスによって導入されたHoxD8が横隔膜上の新生リンパ管の径を拡大させることが明らかとなった。我々はまたProx1とHoxD8が協調的にAng2の発現を誘導することを見出した。HoxD8がProx1の発現を亢進することから、Prox1の発現は自身の標的遺伝子であるHoxD8によって維持されていることが示唆された。以上の結果からProx1lとHoxD8による転写ネットワークがリンパ管の成熟と維持において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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