研究概要 |
Girdinのノックアウトマウスは生後4週間以内に死亡するが、その原因は現時点では不明である。ノックアウトマウスの組織学的な解析を行った結果、中枢神経系において海馬歯状回と嗅球の形態に異常があることが判明した。嗅球の形成異常については、脳室周囲の脳室下帯(subventricular zone)から産生される神経前駆細胞が嗅球に向かって移動する過程において、遅延を生じていることが原因であった。そのためその経路であるrostral migratory system(RMS)の幅が著しく拡大していた。蛍光色素を発現するレトロウィルスを脳室下帯に注入し、脳室下帯からRMSへの神経細胞の遊走を観察すると、注入後7日目において野生型では嗅球まで神経細胞が遊走していた一方、ノックアウトマウスでは嗅球までの距離の1/2程度までしか移動していなっかった。さらに、野生型とGirdinのノックアウトマウスからRMSを採取し、GDNF,BDNFあるいはVEGF存在下で培養すると、野生型では神経細胞体がRMSから遊走してくる像が観察されるのに対し、ノックアウトマウス由来のRMSからは神経突起の伸長は見られるものの、細胞体自体は遊走する像を認めなかった。この結果はGirdinがGDNF,BDNFあるいはVEGF因子依存的は細胞運動に重要な役割を果たしていることを示した。また遊走している神経細胞の形態を観察した結果、ノックアウトマウスのRMSでは神経細胞の突起伸長が見られ、嗅球に到達する前にすでに分化が始まっていることを示唆する所見を示した。今後、Girdinによる神経細胞の運動制御の分子機構について、上流で働く因子の同定を含めさらに解析を進める予定である。
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