研究概要 |
1.小児の出生時体格,神経発達,アレルギーと環境化学物質の関連を解明するために,妊婦514名とその児を対象に前向きコホート研究を実施している。ベースライン時,1歳6ヵ月時,3歳6ヵ月時,7歳時の両親または児の食習慣・生活習慣・職業歴・居住環境・育児環境等を詳細に調べている。環境化学物質として母体血中ダイオキシン・PCB異性体類426名,母乳中ダイオキシン・PCB異性体類250名,母体血中PFOS/PFOA447名の測定を行った。 2.母の遺伝的感受性素因が児に及ぼす影響を解明するために,母体血中ダイオキシン類濃度と遺伝子多型との関連を解析した。ダイオキシン類代謝に関与する遺伝子多型のうちAhR(G>A,Arg554Lys)遺伝子多型ではGA/AA型と比べてGG型の場合,Total Non-ortho PCBsおよびMono-ortho PCBsが有意に減少した。さらに異性体別でもNon-ortho PCBsの3,3',4,4'-TeCB(#77)(p=0.029),3,3',4,4',5-PeCB(#126)(p=0.006)の2種,また,Mono-ortho PCBsの2',3,4,4',5-PeCB(#123)(p=0.001),2,3',4,4',5-PeCB(#118)(p=0.004),2,3,3',4,4'-PeCB(#105)(p=0.004),2,3,4,4,5,5-HxCB(#167)p=0.017)の4種が有意に減少したことからAhR(G>A,Arg554Lys)遺伝子多型が母体血中ダイオキシン類濃度に影響する可能性が示唆された。 3.小児の神経行動発達検査は、生後6ヵ月,1歳6ヵ月時,3歳6ヵ月時の検査が終了し,7歳時の認知能検査(WISC-III),前頭葉機能検査(ウィスコンシンカードソーティングテスト:KWCST),運動機能評価(上肢運動遂行検査)および遊び行動の調査を継続して追跡調査中である。 4.妊娠中の環境要因として新たに注目されている妊娠中抑うつに着目して児の発達との関連を解明するために,「エジンバラ産後うつ尺度:Edinburgh Postnatal Depression Scale」と生後6ヵ月児を対象としたベイリー発達検査(BSID II)を実施した。基本属性,産後抑うつ及び家庭環境を交絡要因として妊娠中抑うつと6ヵ月児の発達との関連を検討したところ,交絡要因の調整前では妊娠中抑うつが高いほど児の認知発達が遅れることが示唆された(p<0.05)。しかし調整後は在胎週数の影響の方が強く現れ,在胎週数が短いほど児の認知発達が遅れることが示された(p<0.05)。
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