研究課題
基盤研究(A)
これまでに、我々はDNase I遺伝子内にSNP(一塩基置換多型)部位A2317Gを見出し、さらにこの多型については民族間差異を認めた(1)。この多型は翻訳領域を構成する第8エキソンに位置し、この塩基置換によってDNase Iタンパク上でアミノ酸置換(Q222R)が生じ、2個の置換型(A2317およびG2317型)はそれぞれ主要対立遺伝子、DNASE1*1およびDNASE1*2に対応する。我々はこのDNase I多型と各種疾患との間の相関について網羅的な検索を行い、その結果G2317型(DNASE1*2)対立遺伝子は胃がん、大腸がんおよび心筋梗塞罹患と有意な相関があることを見出した。がんや心筋梗塞などの生活習慣病は遺伝的要因と様々な環境要因との相互作用によって発症する。遺伝的要因を構成する多数の遺伝子群は疾患感受性遺伝子(疾患の危険因子)と呼ばれ、これらの疾患感受性遺伝子の探索・同定は発症メカニズムの解明や予防医学的な措置などに有用な知見を提供するものである。DNase I遺伝子は疾患感受性遺伝子のひとつであると考えられるが、これまでのところA2317G多型に基づくアミノ酸置換によって生じたDNase I1型(Q222)および2型(R222)の生化学的性状に顕著な差異を見出すことは困難であった。一方、DNase Iはアポトーシス(programmed cell death)の後期過程に関与するとされている。また、最近DNase Iは全身性エリテマトーデスの発症に大きく関与することが示唆された。さらに我々は急性心筋梗塞発症に伴い血中DNase I活性が急激に増加することを見出すなど、DNase Iと疾患の病態生理学的観点から、アポトーシス機構が関与しているのではないかと考えるに至った。DNase I1型(Q222)および2型(R222)の病態生化学的な差異に関して論じた報告は国内外において皆無である。DNaseとアポトーシスについて、アメリカのジェネンティク社のグループがヒトDNase Iをバイオ・エンジニヤリング生産し、嚢胞性線維症などの治療薬として市販しているという報告、ドイツのマルブルグ大学グループによる、DNase Iとアポトーシスに関する生化学的、組織学的、細胞生物学的研究からDNase IのSLE発症への関与を示唆した報告等があるが、アポトーシス誘導による疾患感受性遺伝子DNase Iの多型機構解明に言及した報告はない。そこで本研究では、アポトーシス誘導によるDNase I1型(Q222) および2型(R222)の病態生化学的な差異を精査し、疾患感受性遺伝子DNase Iの多型機構を解明することを最終的な研究目的とする。
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