私達はこれまでの研究において悪性グリオーマの強い浸潤能と治療抵抗性を規定する重要な分子とそのシグナル経路を明らかにすることが出来たので、次のステップとしてそれらの分子メカニズムに基づく新たな治療戦略のデザインと実践へのアプローチを行いたいと考えた。そして最終的には脳腫瘍の浸潤性の抑制および治療感受性の向上を目指した創薬を推進するためのツールの開発を目標とした。以下に具体的な成果を示す。 (1)悪性グリオーマの浸潤能は細胞外マトリクスの産生能と極めて強い相関を示すことを見出しているので、マトリクスの産生を評価するアッセイ系を確立し、各種低分子化合物を用いてスクリーニングを行った。その結果、マトリクス内への浸潤を抑制できる化合物を見出すことができた。その化合物はADAM17メタロプロテアーゼの活性を阻害することが分かった。(2)抗がん剤の効果を細胞の酸化ストレスの上昇で検知するシステムを構築し、新たな抗がん剤のスクリーニング系を立ち上げることができた。(3)成獣マウス傍脳室部の細胞を増殖因子存在下、無血清下で浮遊培養してスフェロイドを形成し、神経幹細胞・前駆細胞分画をenrichしたのち、レトロウイルスを用いて活性型Ras遺伝子、あるいはc-myc遺伝子を導入し、その細胞を同系マウスの脳内に移植した。野生型の細胞では腫瘍はできなかったが、Ink4a不活化マウスより取得した神経幹細胞・前駆細胞分画では、活性型Ras導入によって、gliobiastomaに類似の病理像を示す腫瘍が、そしてc-myc導入ではmedulloblastomaに類似の病理像を呈する腫瘍ができた。本モデルを用いて腫瘍形成、浸潤に対する薬剤治療実験を行っている。
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