研究概要 |
成体におけるNa^+-K^+ATPase(Na^+-K^+pump)の役割の重要性は、Skou JCが1997年その発見でノーベル化学賞を得て以来、さまざまな面から研究がされている。今年度は、細胞内外のNa^+とK^+の濃度を調節・制御しているNa^+-K^+ATPase(ナトリウムポンプ)とともに他のイオントランスポーターが、疼痛制御機構どう影響するかを、疼痛制御機構の重要なターゲットと想定される脊髄前角ニューロンと脊髄後根神経節ニューロン(感覚ニューロン)、更には中枢神経系のグリア細胞への作用の検討を行った。 Cation-Chloride Cotransporters(CCC)の役割を検討するために、そのInhibitorであるflosemideのラット脊髄くも膜下腔に投与し、行動変化を観察した。CCCのinhibitorはラットの疼痛刺激に対する閾値を低下(手術切開モデルでは切開部周辺の痛覚過敏に関与する)させたが、切開手術モデルの痛みは抑制したことを見出した。 エンドセリンET-1を切開モデルラットの脊髄クモ膜下腔に投与すると、鎮痛効果を示し、その作用は、ETAおよびETB受容体を介していると推察された。DRGニューロンと、脊髄後角マイクログリアの結果は共に、脊髄クモ膜下腔に投与したET1は、切開による活性を抑制し、アンタゴニストA,Bは共に、そのET1の作用を抑制し、これは疼痛閾値の結果と一致した。この作用がミクログリアの作用を介していることを示唆する結果を得た。 さらに、グリア細胞(アストロサイト)は成長因子を遊離することによってニューロン活動を賦活し、グリア細胞由来の神経成長因子(G DNF)はニューロンや損傷を受けた組織のアストロサイトに発現する。この機序を、グリオーマ細胞を用いて検討した結果、IL-1βはGDNFの遊離を刺激すること見出し、IrB-nuclear factor kappaB、p38MAPkinase,p44/p42kinase,そしてJAK-STAT3の経路を介すること、しかしSAPK/JNKの経路ではないことを明らかにした。 今年度のこれらの結果は、イオントランスポーター、エンドセリンは、脊髄鎮痛制御機構にさまざまな影響を与えており、その役割は、正常の場合と損傷を受けた動物とによって異なること、グリア細胞もその作用の一端を担っていることを示唆するものである。
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