両耳聴の脳内階層性と可塑性の有無について、臨界期の有無を視野に入れて、どのような聴覚補償を左右別々、あるいは左右同じ機器を用いて繰越して研究した。その結果は聴覚補償を行った気導補聴器、骨導補聴器のいずれでも、どのような組み合わせでも両耳聴は実現できるものであることを証明できた。(1)脳内の階層性については、年齢にかかわらず中枢聴覚伝導路に病巣がない限り階層性ははっきりしないこと、(2)可塑性については、小児期でも成人期でも老年期でも十分に存在し、両耳聴が可能であることがわかった。(3)臨界期については、両耳聴については両耳を使っている限り、特にはっきりしておらず、それまで聴覚情報が難聴のために脳内に届いていなくても、新たに聴覚情報を活用できることを明らかにした。すなわち、中枢聴覚伝導路は末梢性難聴があって情報が脳内に入ってこなくても刺激がないことによる休眠状態であって、神経系が変性することなく刺激が来るようになれば両耳聴ですら賦活化するものであることが明らかとなった。以下のデータは次のようにして得られた。1.検査方法として、(1)RION社製自動方向感検査、(2)スピーカ法による音源定位検査、(3)語音認知検査、(4)文章認識検査を用いた。2.対象例は(1)片側小耳症・外耳道閉鎖手術症例の術側耳穴型補聴器装用、(2)両耳小耳症・外耳道閉鎖症例に対する両耳耳穴型補聴器装用、(3)両側外耳道閉鎖症例に対する両耳骨導補聴器装用、(4)片側人工内耳反対側補聴器。以上の研究で両耳音圧差はどの症例でも成立するが、両耳時間差については人工内耳装用者では成立しないことがわかった。人工内耳装用は蝸牛神経障害に匹敵すると考えられた。
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