研究概要 |
う蝕原性細菌として知られているStreptococcus mutansは,感染性心内膜炎の起炎菌となり得ることも知られている.心内膜炎の発症においては,損傷を受けた心内膜や弁膜において露出しているコラーゲンに対して菌が付着するステップが重要である.S.mutansの菌体表層には分子量約120kDaのコラーゲン結合タンパク(Cnmタンパク)が存在していることが知られている.多くの対象者の口腔から分離したS.mutans菌株を用いてCnmタンパクを保有している株の頻度を分析すると,約10~20%の人がCnm陽性のS.mutans株を保有していることが示された.また,心内膜炎の発症においては,疣贅と称される血小板やフィブリンと細菌の塊が弁膜や心内膜に形成されるステップも非常に重要であり,本菌の引き起こす血小板凝集能に関する研究が行われてきた.しかし,菌体表層の表層抗原についての網羅的な分析は行われていなかった.そこで,多数の臨床分離株を用いて,S.mutans菌体の引き起こす血小板凝集能について検討した結果,グルコシルトランスフェラーゼをはじめとした様々な表層タンパク抗原が,血小板凝集能誘発に関与していることが明らかになった.さらに,感染性心内膜炎に対する歯科医師の意識調査を行った結果,これまでの研究において科学的に示されていない様々な課題が浮き彫りになった.今後は,これまでに示された基礎データをもとにして,トランスレーショナルリサーチに取り組んでいきたいと考えている
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