アフリカの牧畜社会は、国民国家の中心を占めていることは少なく、つよく乾燥した辺境地域に分布しているために、世界システムのなかでもっとも抑圧され、開発=発展から排除されてきた。そして、この地域における旱魃や飢餓の問題が、世界中のマスコミの注目を集めるようになった1970年代以来、多くの開発計画が実施されてきたが、その多くは失敗に終わったばかりではなく、環境破壊や貧富の差の増大といった、ときには破滅的な負の影響をおよぼしてきた。また、この地域では、たび重なる旱魃の影響、市場経済の浸透、学校教育や近代医療の普及、国家の司法や行政システムへの包摂などによって、生態学的・社会的な環境が激動している。これに対して人びとは、食糧や収入を確保するための手段を多様化し、さまざまなサービスや情報へのアクセスを切り拓きながら生存の道を模索している。だが、この社会の開発=発展がいかに実現されるべきなのかについては、いまだに明確な方向性が見いだされていない。 本研究はこの諸社会を対象として、以下の項目についての研究を進めることを目的とする。 (1)在来の知識や技術、相互扶助を重視する社会関係、対面的なコミュニケーションの様式、儀礼や象徴的表現など、人びとが培ってきた技術・経済・社会・文化の諸側面を「ローカル・プラクティス」(LP)として再評価する。 (2)人びとがLPに基づきながら激動する生態環境・社会環境に対して複雑なやり方で対処している様態を解明する。 (3)従来の開発計画の失敗要因を牧畜社会に特徴的なLPとの関連において再検討する。 (4)LPを活用して、どのような新しい開発=発展の方途が実現できるかを考察する。
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