研究概要 |
最終年度に当たり、異化と同化の課題に関して、表象を中心に調査を遂行した。先住民族自ら運営する博物館における展示を北欧、メキシコを含めて北アメリカおよび台湾の調査を行なった。北欧では、主流社会にとけ込みながら、伝統継承を基盤にアイデンティティを維持していることと、日常生活の現状を強調する展示は印象的だった。メキシコでも同じ傾向が認められる一方、米国の博物館展示では、伝統を強調する展示が目立っている(スチュアート、山本)。台湾では、博物館展示の他に、野外民族公園(伝統的な家屋などの復元)が整備されている状況は確認できた。 カナダ北西沿岸地域において,トーテム・ポールに注目して、同化が進んでいるインディアンは民族芸術の実践を通して主流社会との異化を表徴としていることを明らかにした。イヌイトについては、カナダ主流社会の同化の波に呑まれつつも、完全に同化されることなく、イヌイト語や「イヌイトの知識」、狩猟・漁労・採集の生業の実践などを通して自らを主流社会から異化しながら独自のアイデンティティを保ちつづけることを調査した(大村)。 フィンラド、スイス、ドイツとオーストリアにおける現代手工芸品と博物館展示を中心に、少数・先住民族は同化しつつも、独自の文化と社会を表徴している動態の調査を行なった(佐々木、手塚)。 北アメリカの先住民文化表象をめぐる映像資料や博物館展示を中心とする調査と、小説や演劇などの個々の作品研究を行った。居留地における原爆開発や先住民による従軍経験など、先住民作家による歴史の書き直しの意義と可能性について研究者との意見交換を行なった(室)。 中国雲南省の少数民族をめぐる中国政府の民族認定政策の現状と矛盾について「苦聡人」のおかれている状況を調査した(謝黎)。
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