本研究では、国民国家と先住民族の関係について、国家の主流社会に対する先住民族社会の広い意味での同化(主流社会の経済や文化への先住民諸社会の埋没や統合)と、広い意味での異化(主流社会に対して、また先住諸民族同士による社会と文化の独自性の主張)の歴史と現状を焦点に調査し研究する。その目的は、先住民族の社会・文化の多様性を維持しつつ、国家や国際社会としてのコンセンサス(意志決定にかかわる多様な社会集団の合意)を形成し維持してゆくための理論と方法について考察することである。 現在、先住民族をはじめ、様々な社会集団の社会・文化の多様性を維持することの重要性が広く認められている。しかし、その一方で、国家や国際社会の意志決定の具体的な場においては、その多様性を維持しつつも、多様な社会集団の間にコンセンサスをいかに形成するかということが問題となっている。多文化主義を掲げる国家の意思決定の場はもちろんのこと、クジラをはじめとする絶滅危惧種の保護や環境管理、環境開発などの意志決定の場では、具体的な意志決定のためにコンセンサスを形成することは避けて通れない課題である。多様性の中のコンセンサスを実現するにはどうすればよいのかという課題は、国際社会や国家のレベルから、地域開発や地域的な環境管理の現場などにおける地域のレベルにいたるまで、あらゆるレベルにおいて共通課題として追い求められている課題である。
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