アフリカ諸国では都市への食糧供給が食糧問題の中心的課題であり、農村での食糧確保(food security)には十分な関心が払われてこなかった。本研究は、タンザニアとザンビアを主たる調査対象地域として、東南部アフリカ諸国の農村において、いかに食糧が確保されているのかについて、農業を含む多様な生業(livelihood)の展開と、それらを支える社会経済的な基盤にまで視野を広げて、実証的な資料の収集と分析をめざすものである。 本研究においては、3つのアプローチを試みる。第一は、本研究の中核ともいえる農村での実態調査であり、農牧を中心とした営農形態、農村部の生業・食糧をめぐる行為主体の多様化・階層化、農村の生存基盤を支える資源の配置と利用形態という3側面に注目する。第二のアプローチは、統計資料やGISデータといったマクロ・データの活用である。信憑性に乏しいと評価されている統計資料であるが、その利用方法、留意点について考察し、国レベル、広域レベルでの食糧問題の概要の把握に努める。また、GISデータの解析によって、どのような規模の「地域」の食糧問題にいかなる情報を提供しうるのかについて検討する。第三のアプローチは、アフリカ農村に関する先行研究の活用である。1970年代にさかんであったアフリカ農村社会経済研究は1980年代は低調となり、1990年代以降の社会開発への関心の高まりのもとで再び活発となりつつある。1970年代等の農村社会経済研究の蓄積を、2000年代のアフリカ農村における食糧確保と生業展開という本研究の問題関心に即して読み直し、第一のアプローチの3側面に関する農村変容過程について、やや抽象的なレベルで考察する。
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