研究概要 |
海鷹丸による,南大洋航海を実施した(19年12月25日〜20年2月16日)。主たる調査海域は,(1)昭和基地沖,プリッツ湾西方沖および(2)アデリーランド沖,ジョージVランド沖である。(1)における調査は,極地研究所との共同研究であり,海洋構造,栄養塩分布,硫化ジメチルの生成機構,二酸化炭素分圧,基礎生産,動植物プランクトン等に関する観測,採集を行った。(2)における調査は,日豪仏共同による,生物種の記載と分布の解明を主目的としたものであり,各種プランクトンネット,中層トロールによる採集を中心に行った。また,調査海域と寄港地の間では,航走中に連続プランクトン採集装置の曳航を行い,1日1回の停船観測による表層プランクトンの採集と基礎生産の測定を行った。栄養塩,クロロフィルに関しては船上で分析を行ったが,それ以外の試料については分析中であり,またデータの解析を行っている。 南大洋の生物相においては,近年の気候温暖化に伴いナンキョクオキアミの減少,サルパ類の増加が指摘されているが,本航海では,サルパ類はほとんど採集されず,またナンキョクオキアミが多く採集され,反対の結果であった。海洋環境との関係の解析,過去の記録との比較により新たな結論が得られることが期待される。(2)の海域では,中・深層に至る各層のプランクトン,マイクロネクトンの採集を沖合の8測点で実施することができ,また中層トロールによる魚類の採集を陸棚から外洋域にかけての22測点で実施することができた。従来,このような,密度の高い採集を行った例はなく,南大洋における生物多様性を明らかにする上で貴重な試料を得ることができた。これらの試料を解析し,また各測点で行った海観測や植物プランクトン,基礎生産などの情報と併せて解析することにより南大洋の海洋環境と生態系を解明し,また過去のデータとの比較によりその変動を明らかにすることが期待される。
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