世界中に分布する泥炭地は、湿地特有の生態系が育まれているだけでなく、近年は巨大なカーボンシンクとして認知され、地球温暖化対策上、その保全が強く求められている。泥炭地は熱帯ではインドネシアに最大の分布があるが、最近の乱開発や無秩序な農地開発に伴い、泥炭の乾燥化が進行し、その上に成立していた湿地林が頻発する森林(泥炭)火災によって破壊され、その結果としてCO_2の大量放出とカーボンシンクとしての機能の喪失、生態系の撹乱、煙害の発生、など、インパクトの大きいカタストロフィックなイベントが認められるようになっている。 本研究が主たる研究対象地としているインドネシア・中部カリマンタン州では、1990年代に大規模な農業開発が沿岸部の熱帯泥炭地を対象に計画・実施され、数千km におよぶ排水路が開削されたものの、農地開発は全くの失敗に帰した。その一方でこれまで人の近寄ることのできなかった湿地林には、排水路の開削による水位の低下と、その排水路を使った違法伐採が入り込み、その結果森林火災が頻発し、泥炭湿地林ならびに泥炭が大面積で消失するとともに、その跡には荒廃地が広範囲に残されることとなった。この荒廃地では、現在でもしばしば泥炭火災が起きており、CO_2 の放出源となっている。 本研究はこのような脆弱かつ大量のカーボンを抱え込んだ生態系である熱帯泥炭地を対象に、カーボンフロー・コントロールに立脚しながら、1)ランドマネージメント最適化方策を確立することによって泥炭火災を抑止し、2)荒廃した熱帯泥炭地の管理と再生をすすめ、3)熱帯泥炭地における持続的生物生産活動を確立しつつ環境負荷を軽減すること、を目標としている。
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