前年度バングラデシュ、インド、ネパール、さらにモンゴルの各地域ごとに海外共同研究者と協力し旧大陸における内臓型リーシュマニア症の実態調査を行った。その結果特にバングラデシュにおいて内臓型リーシュマニア症(カラアザール)及びカラアザール治療後に発症する皮膚病変を主徴とする疾患であるPost kala-azar dermalleishmaniasis(PKDL)が深刻な問題となっていることが判明した。そこで本年度は内臓型リーシュマニア症が高度に浸淫しているとされるバングラデシュのマイメンシン県においてカラアザール及びPKDLに関する調査を行った。カラアザール患者については骨髄バイオプシを、PKDL患者については皮膚病変のバイオプシをインフォームドコンセントを取った上で実施し原虫の分離を試みた。その結果複数のカラアザール患者から原虫が検出されたにもかかわらずPKDL患者についてはPapular型の皮膚病変が見られた1例についてのみ原虫が検出された。PKDL患者から検出された原虫はDNA塩基配列の解析よりL.donovaniであることが確認された。これらの結果から少なくともPapular型のPKDLの場合、皮膚病変部にL.donovaniが寄生しうることが新たに明らかとなった。このことはスリランカにおけるL.donovani s. l.による皮膚型リーシュマニア症と同様L.donovaniの皮膚寄生を示す興味深い事例であり内蔵型リーシュマニア症との更なる比較研究が必要である。一方でPKDLは致死的でないにもかかわらず患者はカラアザールのリザーバーと考えられており、カラアザール患者の3クール分の治療を受けるため副作用など治療による患者への負担が大きい。本研究の結果はPKDL患者、特に患者の多くを占めるPapular型以外の皮膚病変を示す患者について治療が必要なのか疑問を呈するものである。
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