研究概要 |
前年度までに各地域ごとに海外共同研究者と協力し旧大陸における内臓型リーシュマニア症(カラアザール)の実態調査を行った。その結果内臓型リーシュマニア症の浸淫地域各地より病原体であるL.donovani, L.infantumが分離され、さらにバングラデシュにおいてはPost kala-azar dermal leishmaniasis(PKDL)患者皮膚由来L.donovani株、スリランカにおいては皮膚型リーシュマニア症由来L.donovani株の樹立に成功した。そこで本年度はL.donovaniの遺伝的多様性を明らかとするため、これまでに得られた原虫株について遺伝子解析を行った。得られた原虫株についてミトコンドリアペルオキシレドキシン(mPxn)遺伝子の塩基配列を決定し、新大陸における内臓型リーシュマニア症の病原体であるL.chagasiさらにL.major等その他のリーシュマニア原虫4種との比較解析を行った。mPxn遺伝子全長の比較解析の結果、L.donovani, L.infantum, L.chagasi間では互いに最大2塩基の相違しか見られずこれら内臓型リーシュマニア症の病原原虫3種は遺伝的に非常に近縁であると考えられた。一方L.donovani内でも塩基配列に最大2塩基の差があり、スリランカ由来株及びスーダン由来株はインドやバングラデシュ由来の原虫株と配列が異なり、L.donovaniの遺伝的な多様性がヒトの示す病型や感染環の多様性に影響を与えていることが示唆された。また、PKDL患者由来株はmPxn遺伝子のみならずシステインプロテアーゼB遺伝子についてもバングラデシュにおける内臓型リーシュマニア症患者由来株と同一の遺伝子配列を示し、これまでに得られた患者の病理学的・免疫学的な知見と合わせるとPKDLの病態形成には内臓型リーシュマニア症を引き起こしていた原虫の変異というよりは患者の免疫反応が重要な役割を演じていることが示唆された。
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