研究概要 |
前年度までの研究により、PKDLの病態形成には内臓型リーシュマニア症(VL)を引き起こしていた原虫の変異というよりは患者の免疫反応が重要な役割を演じていることを示唆した。VLによる様々な病態形成のメカニズムの解明にはマウスモデルが有用であると考えられるが、現在、マウスに対する感染性はヒトに対するよりも低いと考えられ、マウスを用いたVLの病態モデルは確立されていない。したがって、本年度は、VLの病態機序解明のためのマウスモデル作製を目的として、これまでに海外共同研究者と協力し得られた世界各地のL.donovani分離株のマウスへの感染実験を試みた。そのうちL.donovani D10(MHOM/NP/03/D10)がマウスに対して感染性を示し、さらに免疫不全マウスであるBALB/cA Rag2KOマウスを用いて継代馴化することにより感染性が上昇した。本株の培養原虫をBALB/cAマウスに感染させたところ、経時的に脾臓は増大し、感染3ヶ月後に長径が未感染マウスの約1.7倍に達し顕著な脾腫が観察された。また各種臓器における原虫増殖を確認するために、押捺標本を用いてLDU(アマスティゴート数/有核細胞1,000個)を計数し、感染原虫数を定量的に評価した結果、脾臓、肝臓LDUは顕著に増加していた。本結果よりヒトVL病態が再現出来たと考えられた。本症はサシチョウバエが媒介するvector-borne diseaseであるため、患者血液中に原虫の存在(原虫血症)が強く示唆されているが、実際の検出報告は極めて少ない。そこで本モデルを用い経時的に採血した感染マウス末梢血を培養した結果、感染2ヶ月後から培養液中より原虫が分離され、L.donovani感染における原虫血症が実験的に明らかにされた。本研究で得られたマウスモデルはヒトVLによる様々な病態形成のメカニズム及びVL伝播サイクルの解明に有用と考えられる。
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