研究課題
本研究では、過去に流行したインフルエンザウイルスのアミノ酸配列データを大規模に解析し、パターンを発見することにより将来の抗原変異を予測する手法を開発することを目的とする。A香港型ウイルス(H3N2)の流行におけるHAの継時的変化を把握するために、多次元尺度構成法(MDS)を用いて、H3N2亜型ウイルスのHA1領域のアミノ酸配列2450本を解析し、HAの進化を表す三次元地図を構築した。構築した三次元地図に基づき、異なる年代のHA間の相対的な距離に関する規則性を探索した。また、相対的な距離を利用して翌年のアミノ酸置換を予測する試験を行い、予測の精度を検証した。MDS解析の結果、H3N2亜型ウイルスのHAは一定の曲率をもつ曲線上を進化していることが判明した。MDS空間における曲線上の進化は、同じの位置のアミノ酸が複数回置換していることを意味する。また、曲率が一定であることから、異なる年代のHA間の相対的な距離に規則性があることが示唆された。HAアミノ酸配列の各位置における置換頻度がガンマ分布に従うと仮定すると、この相対的な距離をよく回帰できることが判明した。回帰から得られたガンマ分布のパラメータを利用し、過去10年に溯ってそれぞれ翌年のアミノ酸置換を予測する試験を行った。1997年から2007年の各年に対し、HAアミノ酸配列から翌年のアミノ酸置換を予測し、実際に起こったアミノ酸置換と予測結果を比較したところ、本手法は再現率=67%、適合率=46%で翌年のアミノ酸置換を予測することが判明した。この結果、サーベイランスで得られるHAの遺伝子情報から、翌年の抗原変異株が持つアミノ酸置換を比較的高い精度で予測できることが示唆された。
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