研究概要 |
本研究の目的は,「巧みさ」が必要とされる作業として「折り紙」を具体的に取り上げ,ヒトの手による作業を仔細に観察し,その作業の本質的機能を抽出した結果を基に同じ機能を実現できる機械を工学的に創生することで,「手の巧みさ」の本質的理解を目指すことである.本年の研究実績の概要は以下の通りである. (1)折り紙ロボットシステムによる折り紙作業の実現 前年度の成果を基に試作した,「おたまじゃくし」の折りが可能なロボットシステムで実際の折り作業の実現を試み,実際に「おたまじゃくし」が折れることを確認した.これにより,折り紙作業における本質的に重要な部分が抽出できていることが検証できた.ただし,紙の挙動の不確定性から「おたまじゃくし」が折れる確率は2割程度しかなく,折り紙がたわんだ状態にあるときの折り紙の状態認識が必要であることが分かった. (2)ヒトの直接教示の履歴に基づく環境の不確かさへの対処手法の検討 折り作業の成功率を上げるために,ヒトの直接教示データから紙の挙動の不確かさへの対処法を自動的にモデル化する手法を検討した.まず前年度に開発した微小力センサによって紙の挙動を指先接触点での紙からの反力として計測し,ヒトが直接教示の際に無意識に行っている修正動作を統計的な性質を表現できる隠れマルコフモデルでモデル化する手法を開発した.次いで,モデル化したマルコフモデルのパラメータから直接教示の際のヒトの作業スキルをフィードバック制御則の形で抽出する手法を開発した. (3)提案手法の実験的検証 (2)で開発した手法の有効性を検証するために,最も基本的な折りである谷折りを作業対象とした実験を行った.実験の結果,これまで試行錯誤的に与えた経由点を補間する軌道では度々失敗していたのに対して,直接教示動作を平均化した軌道を与えることでほぼ失敗がなくなることが確認できた.さらに,モデル化に用いた隠れマルコフモデルの統計パラメータを基にしたセンサフィードバック則による修正動作を施したところ,単に平均化した軌道を与える場合に比べて折の質が向上し,人間が直接教示したときの折の質に近づけることができた.これにより提案手法の有効性が確認できた.
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