研究概要 |
昨年度の研究によって,経頭蓋直流刺激(以下tDCS)を与えることで,経済的な意思決定を行う際のリスク選好をコントロールできることはわかったものの,リスク選好の変化によって,呼吸,脈拍,SCRのいかなる生理指標にも有意な変化は見出せなかった.この理由として,昨年度の実験では実験参加者は2つの選択肢の中からより良いと思う方を選択したものの,いずれの選択肢を選んでもそれが正しい選択であったか否かに関するフィードバックを得られないため,正しい選択をしたことによる報酬が得られなかったことが考えられる.すなわち,いずれの選択肢を選んでも効用が増減することはなく,結果として情動系が反応しなかった恐れがある.そこで本年度の実験では,現実世界の意思決定を模倣した課題で,選んだ選択肢が正しいか否かに関する情報が報酬として即時フィードバックされるアイオワ・ギャンブリング課題を用いて,昨年度と同様に投資家を対象に,意思決定を行っている際に前頭葉にtDCSを与えることでリスク選好をコントロールした上で,リスク選好の状態(リスクの高い/リスクの低い選択を行っている)が呼吸,脈拍,SCRといった生理的な反応に影響を及ぼすのかどうかを検討した.実験の結果,アイオワ・ギャンブリング課題においてもtDCSによってリスクテイク量が増減することが示された.一方,一部の先行研究で報告されている,生理的な反応がリスクの認識に先行して生じるという結果は得られなかった.高いリスクをとることのSCRへの影響は個人差が大きいことが実験より示唆されたため,投資行動において必要以上にリスクをとっているかどうかを生理反応によりリアルタイムでモニタリングし,投資の初心者に対する助言を行うには,今後さらなる工夫が必要と考えられる. 投資家の投資行動を支援するための手法開発の基礎として,本年度は,テキストマイニング技術を用いた国債市場の動向分析も試みた.金融市場には常に様々な情報が溢れているため,投資家は市場にあるすべての情報に目を通して市場動向の分析に利用することは事実上不可能である.これまで経済指標やマーケットのテクニカル指標等の数値情報による市場分析は行われてきたものの,数値化されにくいニュースなどのテキスト情報による市場分析は近年始まったばかりである.特にテキスト情報から数年にわたる比較的長期の市場動向の変化を分析する試みはほとんど行われていないため,それを実現するための手法を考案した.具体的には,経済情報に関するテキストデータを説明変数とし,債券価格の時系列データという被説明変数を分析するための手法を考案した.その結果,経済的に意味付け可能な各主成分が抽出され,債券市場に対して一定の説明力を持つ可能性が高いことを示すことができた.
|