視覚探索課題において、標的項目と妨害項目の類似性が高い場合には非効率的探索(提示項目数の増加に伴って反応時間が顕著に遅延)となり、類似性が低い場合には効率的探索(提示項目数に依存せず反応時間はほぼ一定)となることが知られている。 本年度は、標的-妨害項目間類似性を操作し、効率的探索処理中と非効率的探索処理中の脳活動を実験的に検討した。機能的MRIを用いた実験では、非効率的探索課題において右半球の中前頭回のBOLD信号が高まることが明らかになった。また、一次視覚野および下頭頂小葉は提示項目数に応じて活動が高まるが、標的-妨害項目間類似性には影響されないことが明石かになった。これらの結果は中前頭回が視覚的注意のトップダウン制御に関わっていることを示しており、後部脳領域に保持されている提示項目の表象と前頭に保持されている標的の表象とのマッチングに重要な働きをしていると推察される。 次に脳波を用いた実験では、前頭-頭頂間協調の時間的特性について検討した。事象関連電位では、注意を反映すると考えられている前頭P2成分および作業記憶のアップデートを反映すると考えられているP3成分のいずれにおいても、立ち上がり潜時に探索難易度の影響はなく、P3成分の持続時間にのみ差異が認められた。また、脳波の位相同期性分析では、22-34Hz帯域で前頭-頭頂間の同期性が非効率的探索において高まることが明らかになった。これらの結果は、注意のトップダウン制御が一過性の前頭-頭頂間同期によって媒介されていることを示している。現在、探索効率の個人差に関連した脳活動状態について解析を進めている。
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