研究概要 |
視覚探索は注意のボトムアップ制御とトップダウン制御の交互作用によって行われると考えられている。近年のサルの細胞活動記録実験において、高γ帯域(36-56Hz)での同期性はボトムアップ制御に、低γ帯域(22-34Hz)での同期性はトップダウン制御に関連している可能性が示唆されている(Buschman & Miller, 2007, Science, 315.)。そこで本年度は、頭皮上脳波を用いて、ヒトの注意制御においても同様の関係性が認められるかを検討した。また、二つの注意制御様式に対するバイアスが加齢効果(あるいは個人差)を生み出している可能性について検討した。 実験1では、標的-妨害刺激間の類似性が低い視覚探索課題(特徴探索課題)と、類似性が高い課題(結合探索課題)を10名の大学生(平均23歳)に課した。前者の課題はボトムアップ制御が優性であり、後者はトップダウン制御が支配的であることが知られている。実験の結果、結合探索課題における脳部位間の位相同期性が低γ帯域において高くなることが示された。一方、高γ帯域の位相同期性に有意な差異は認められなかった(Phillips & Takeda, 2009, Int J Psychophysiol, 73.)。 実験1において高γ帯域での同期性とボトムアップ制御の間に有意な関係が認められなかった理由として、前頭葉機能が健常に発達した若齢者ではトップダウン制御が強く働くため、特徴探索課題においてもトップダウン制御にバイアスしていた可能性が考えられる。これに対して、高齢者では前頭葉機能が低下することが知られており、健常若齢者よりもボトムアップ制御にバイアスされる可能性が考えられる。そこで実験2では、同様の実験を14名の高齢者(平均68歳)に対して実施した。その結果、ボトムアップ制御が支配的な特徴探索課題において、高γ帯域の位相同期性が高くなることが明らかになった(Phillips & Takeda, 2010, Int J Psychophysiol, 75.)。 これらの研究結果は、脳波の位相同期性が視覚的注意の個人差や発達差を調べるための重要な手掛かりになることを示している。
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