ゲノム系統学の諸問題においてモデルのミススペシフィケーションが系統樹推定にどのような偏りをもたらすのか、またそのような偏りをなくすにはどのようにモデルを改良していけば良いのかについて検討し、ポストゲノム時代にふさわしい系統樹推定法を確立することを目指している。 我々が真獣類の系統樹解析で見出した単純なモデルによる推定の偏りは、その原因が未だに不明であった。分子系統樹推定の偏りの原因として従来から挙げられてきたものに、系統による進化速度の不均一性、塩基組成やアミノ酸組成の系統による違いなどがあるが、真獣類のこの問題には当てはまらないように思える。近年のゲノムプロジェクトの急速な進行によって、ゲノム規模のデータを用いた系統樹推定が行われるようになってきたが、ゲノム規模のデータには様々な進化速度や進化様式をもった遺伝子が含まれており、その多様性は非常に高い。そこで、真獣類の初期進化における系統関係を最尤法を用いて解析したところ、個々の遺伝子間の不均一性を無視すると系統樹推定に大きな偏りをもたらす原因となることを明らかにした。 真獣類に属する鰭脚(ききゃく)類は、鰭状の四肢を持つ食肉目の中の系統群であるが、その起源と内部の系統関係に関しては統一見解が得られていなかった。分子配列データによる系統樹推定を行うと同時に、分子系統樹推定におけるモデル選択の重要性を示した。 また、ポストゲノム時代の系統学に役立つソフトウエアとしてMOLPHYの改良を行った。
|