ゲノム系統学において、モテルのミススペシフィケーションが系統樹推定にどのような偏りをもたらし、またそのような偏りをなくすためにはどのようなモデルの改良が必要かを検討し、ポストゲノム時代にふさわしい系統樹推定法の研究を行った。系統樹推定には置換モデルの仮定が必要不可欠であるが、塩基やアミノ酸の置換モデルに比べて、より現実の過程に即していると思われるコドン置換モデルを複数考案し、どのモデルがどのようなデータに対して有効なのかを検討した。ゲノム規模のデータには、様々な進化速度や進化様式をもった遺伝子が含まれているので、そのような遺伝子間の不均一性を考慮して、それらを克服するモデルを検証した。遺伝子ごとの進化の違いを正しく把握し、それぞれの遺伝子ごとに最適なモデルを選択した上で系統樹を推定し、最終的に大量の遺伝子データの解析結果を総合的に効率よく評価できる方法の開発を行った。生物進化の具体的な問題として真獣類の系統を解明した。アシカやオットセイなどの鰭脚類、レムールなどの原猿類、ゾウやテンレックなどのアフリカ獣類を対象として系統樹推定を行い、それらの系統准化を発表した。その過程で、分子系統樹推定におけるモデル選択の重要性を示した。近年、陸上植物の葉緑体ゲノムデータも急速な勢いで蓄積しつつあり、葉緑体ゲノムによる系統学的な解析も盛んに行われるようになってきた。葉緑体ゲノムにコードされた蛋白質のアミノ酸置換モデルとしては、これまでAdachi et al.(2000)のものがあるだけであったが、豊冨な新しいデータを含めてこのモデルの改定を行った。また、この新しい置換モデルによる陸上植物の系統学的な解析を進めるとともに、アミノ酸置換における適応的な進化がどの程度広く見られるかについての解析を行った。最後に、分子系統樹推定ソフトウエアMOLPHYを改良し、ゲノム系統学に相応しいバージョンアップを行った。
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