研究概要 |
80アミノ酸残基からなる置換型λリプレッサのフォールディング過程を解析した.昨年度,AMBERを利用したシミュレーションを実施し,50nsの軌道を400本得た.1軌道あたり2500スナップショットからなるので,構造の総数は100万個となる.まず,λリプレッサがランダムコイルから天然状態にフォールドしているかどうかを確認するため,PDBに登録されている天然構造とシミュレーションで得られた構造のRMSD値を計算した.全構造中,最小RMSD値は4.72オングストロームであり,λリプレッサが完全な天然状態ではないが天然状態近傍までフォールドしていることが分かった.他方,2次構造解析からも特徴的なαヘリックス形成が見られたので,天然状態近傍に至る過程としてこの軌道解析は意義があると考え,解析を続けることとした.λリプレッサがフォールドするにつれ,その慣性半径が小さくなり相関が見られた.しかし,天然構造で見られるアミノ酸接触の割合を表すQ値は,ローカルコンタクトの割合が高いため天然状態近傍でも,他のアンフォールド構造でもほとんど変化がみられず、天然状態近傍へのフォールド過程を議論するには向かないことも分かった.次に,λリプレッサがどのような経路を通ってフォールドするかを調べるため,距離マップを用いて構造を階層的にクラスタリングし,その構造遷移図を作成した.全体像を把握するためにしきい値を7オングストロームに設定してクラスタリングを実施し,顕著なクラスタ遷移だけに着目したところ,おおよそ5種類のクラスタ集団が確認された.ランダムコイル状態で全体的にαヘリックスが形成され,1番目と4番目,そして2番目と3番目のαヘリックスの接触が強くなると,λリプレッサ全体がフォールドする傾向にあることが分かった。
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