光同調の機構について2つのモデルを提案した。一つは光応答を示す遺伝子Perを昼の間一定量増加させるモデルであり、もう一つは、Per遺伝子が主観的昼の光に対する応答を示さないという実験結果に基づいた、光のゲーティング機構を用いたモデルである。この2つのモデルの比較を行い、ゲートモデルでは自由継続時と明暗サイクルの位相差を位相後退のみによって埋めようとするため、同調にかかる日数が少なくて済み、効率的な同調が行えることを示した。さらに、このゲート機構を用いてヒトの生物時計に関する時差症候群シミュレーションを行い、東京からニューヨークに航空機で旅行した場合、到着地での時間に生物時計を合わせるためには、1週間を要することをシミュレーションにより導き出した。 哺乳類の時計遺伝子機構は、ポジティブフィードバックループとネガティブフィードバックループの2つのフィードバックループが相互的に作用する"インターロックループ"により構成されており、この構造は生物時計が発生する概日リズムに本質的な役割を果たしていると考えられる。2つのフィードバックループが相補的な働きをするためには、遺伝子Bmalの転写促進因子として働く遺伝子Rorが必要であり、しかもタンパク質RORは複合体PER/CRYと直接結合することなくBmal転写に働く必要があることが分かった。これは核移行の補助や他のタンパク質との複合体形成の補助などRORの関与する未知反応の存在を示唆している。 インターロックループが概日リズムの周期的発現にどのように有効的に働いているのかを振動の頑健性と周期の延長の2つの面から調べ、2つのフィードバックループでは一方が停止してももう一方の働きによりリズムは維持されるため頑健であること、及びインターロックモデルの方がそうでないモデルよりも安定した周期の延長が図れることをシミュレーションにより確認した。
|