研究概要 |
シナプスの形成や可塑的過程における長期的な状態変化には、遺伝子発現を介した新たな蛋白質合成が必要であることが知られている。しかし、実際に、どのような遺伝子の発現が誘導され、さらに誘導された遺伝子がどのような働きをすることが、シナプスの形成・成熟や可塑的変化につながるのかについては、ほとんど分かっていない。本研究申請では、この問題に対する解答を得ることをめざし、ショウジョウバエの神経筋シナプスを材料とした研究を行った。昨年度までの研究において、マイクロアレイを用いて、神経支配の前と後、正常胚と神経支配が起こらない突然変異体の比較発現解析を行い、シナプス後細胞(筋肉細胞)において神経支配により発現量が変化し、したがって活動依存的シナプス形成過程に関与する可能性のある遺伝子を約80個同定した。本年度はこれらについて機能解析を進め、転写因子Lola(Longitudinals lacking)が、神経伝達物質受容体であるグルタミン酸受容体のシナプス部の発現量を制御する働きを持つ事を見いだした。RNA干渉法により筋肉細胞のみでlolaをノックダウンしたところ、グルタミン酸受容体サブユニットGluRllA, GluRllBおよびGluRlllのシナプス部の発現量が著しく減少した。またLolaは、受容体以外にも、シナプス後部に局在するシナプス機能分子PAKの発現にも必要であった。さらに解析を行なった結果、Lolaはこれらのグルタミン酸受容体およびシナプス機能分子について、その転写産物量を正に制御していることが明らかになった。本研究の結果は、ショウジョウバエの神経筋結合系において、シナプス部に局在する機能分子を転写レベルで制御する分子を示した最初の例である。Lolaは同時に複数の分子の転写量を制御することで、シナプス構造の形成・維持において非常に重要な役割を果たしていると考えられる。
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