本研究の目的は、視覚経路全体にわたる色情報変換過程の全体像を明らかにすることである。そのために本研究では、サル大脳視覚皮質のさまざまな領域からニューロン活動を記録し、コントロールされた色刺激に対する応答を解析し領野間で比較する計画である。本年度は注視課題を訓練した1頭のサルの下側頭皮質からニューロン活動の記録を行ない、これまでに色選択性が系統的に調べられていなかった上側頭溝内の領域に色選択性ニューロンが存在することを見い出した。そこで、この領域のニューロンの色選択性を、CIE(国際照明委員会)-xy色度図上で定義した色刺激セット、錐体空間で定義した色刺激セット、物体表面の色を模擬した色刺激セットなど、さまざまな色刺激を用いてテストし、色選択性を定量的に解析した。また注視課題を訓練した他の1頭のサルの下側頭皮質後部の後中側頭溝付近に存在する色選択性ニューロンの性質をCIE-xy色度図上で定義した色刺激セットを用いてマッピングした。その結果、これまでに我々が明らかにしてきたように、この領域に多数の色選択性ニューロンが存在すること、鋭い色選択性を持つ細胞の分布する領域はおおまかな視野表現を持つことが確認された。しかし、この領域内に色選択性細胞は非一様に分布しており、この領域の中に更に色選択性に関する機能区分が存在する可能性が示唆された。この領域の背側の上側頭溝にかけての領域にも色選択性細胞は存在したが、後中側頭溝付近のニューロンと比較して色選択性はゆるやかなものが多く、また視野表現がはっきりしておらず別の領域であると考えられる。
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