網膜の出力細胞である網膜神経節細胞は、画像入力の数十ms~数百ms程度の時間スケールの変化に応答して活動電位を発生(発火)する。ところがその発火には数ms程度のランダムでない時間パターンがあることが観察されている。そこでこのような数ms程度の時間パターンが情報伝達に果たす役割を検討している。 時間パターンの一つは、バースト発火内の発火パターンである。自然な画像入力の下で網膜神経節細胞はバースト発火を引き起こす。これまでの研究によりバースト内の神経発火の間隔が入力に応じて数msの時間スケールで変化し、入力の情報を符号化していることを示した。さらに、バーストが3発の発火を含む場合は、2つの時間間隔が入力情報の2つの特徴を符号化していることがわかった。この正確な発火パターンは、外側膝状体の正確な発火パターンを引き起こし、情報が脳につたえられることもすでに示せている。論文審査中。 時間パターンの第2は、同期発火である。バースト発火を含む網膜神経節細胞のスパイクは、異なる網膜神経節細胞の間で同期する傾向がある。ところがこのような同期発火の情報処理における機能は不明な点が多い。そこで同期発火の情報伝達における機能を、東京大学岡田研究室との共同研究によって検討した。神経節細胞の同期発火を考慮して脳が複号する場合と、同期発火がないと仮定して複号する場合での情報伝達効率の差を解析した。その結果、両者の場合での情報伝達効率の差は小さいことがしめされ、同期発火の統計的性質を用いなくても、大部分の情報を脳は得ることができることが示唆された(論文印刷中)。
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