アルツハイマー病の発症率が上昇していることから、生活習慣病関連因子が認知症の発症にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることは重要な課題である。久山町疫学研究では1988年の健診で、40-79歳の約80%に当たる住民に75g経口糖負荷試験を実施し、耐糖能異常の正確な頻度を調査している。そこで久山町研究の連続剖検による脳標本を用いて、アルツハイマー病の病理学的変化を定量的に評価し、病理変化と耐糖能異常との関連について検討した。研究対象として1998年10月から2003年3月の期間に死亡した久山町住民290名のうち、九州大学で解剖した連続剖検は211例(解剖率:73%)であり、そのうち1988年の健診を受診し、75gOGTTを施行した135名を対象とした。これによって糖負荷後の血糖を反映させることが可能となった。糖尿病関連因子として、空腹時血糖、75gOGTT負荷後血糖、空腹時インスリン、HOMA-IR (homeostasis model assessment of insulin resistance、インスリン抵抗性指標)とアルツハイマー病の病理所見(老人斑、神経原線維変化)との関連を統計学的に解析した。その結果、耐糖能異常、特にインスリン抵抗性が主に老人斑の形成に関与することが示された(HOMA-IRの老人斑の有無に対するオッズ比2.03、95%信頼区間1.14-3.60、p=0.02。性、年齢、収縮期血圧、コレステロール、BMI、喫煙、運動調整)。さらにAPOEの遺伝子多型を直接シークエンス法にて決定し、APOEε4の有無による層別解析を行った。APOEε4と負荷後血糖が高い群では老人斑出現のオッズ比が相乗的に高くなることを見出した。
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