NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)に結合しない、PDZドメイン変異PSD-95を導入したノックインマウスを用いて、PSD-95がNMDA受容体依存性のシナプス可塑性に果たしている役割を解明しようとしている。昨年度、PDZドメイン変異体1mD2mD-PSD95-EGFPを組み込んだホモノックインマウスが作出できており、本変異マウスの解析を始めた。(1)ホモマウスの作出については、ホモ同士の交配が非常に困難であるために、常にヘテロ同士の交配を行って遺伝子型を解析し、ホモ個体を選択する方法をとった。ホモ個体の体重はヘテロ個体や野生型に比べて低く、5~8週齢くらいでは60~80%程度に留まった。(2)遺伝子改変マウスの行動学的解析:ノックアウトマウスの行動解析では空間記憶の低下が示されている。本変異型ノックインマウスについては、もう少し統計的な解析を行うための行動テストバッテリーを目指し、ホモ・WT(♂)のペアを15組作るための大量飼育を始めた。最終的に、H20年度末で27組のヘテロ27組の交配を行って、解析を行う産仔の誕生を待つ状態にまで来た。(3)ホモ・WT成体の脳又は海馬から、PSD画分を調製し、PSD局在タンパク質の発現量を比較したところ1mD2mD-PSD95-EGFPは、GFP融合型で発現して野生型PSD-95の10分の1程度の存在量であるのに対して、SAP102の存在量は2〜3倍程度に増加していた。(4)灌流固定脳のスライス切片を組織染色して脳構造を調べると、全体としては右脳、左脳とも野生型とほぼ同様であった。1mD2mD-PSD95-EGFPは、PSD-95の発現領域に一致して海馬CA1放射線維層や大脳皮質領域に強い発現が観られた。野生型に比べて、細胞体に分布している割合が高く、シナプス局在効率が低下していると考えられる。
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