興奮性シナプス後細胞の足場タンパク質PSD-95による情報伝達調節機構の解明を目的として、独自に開発したNMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)に結合しない、PDZドメイン変異PSD-95を導入したノックインマウスを樹立した。今年度は、(1)本マウスを飼育繁殖し、各16匹の♂野生型および♂ホモ個体の行動テストバッテリーを実施した。本ノックインマウスは体重が軽く活動量が少なく、不安様行動が亢進された表現型を示した。(2)ノックインした1mD2mD-PSD95-EGFP遺伝子の発現量は野生型PSD-95に比べて約10分の1程度に減少している一方で、MAGUKファミリーのSAP102のタンパク質レベルは2倍程度に増加していた。ノーザン解析によってmRNA量を比較したところ、いずれもほぼ同程度であった。これは、タンパク質レベルで観察された量の違いは、PDZ結合の欠損がPSD-95の不安定化に寄与していることを示唆している。(3)ノックインマウスの海馬スライスCA1領域の電気生理学的性質(細胞外興奮性シナプス後電場電位、PPF等)を調べた結果、正常なLTD誘導が起きる一方で、低周波でもLTPが誘導され、LTPの増強が観察された。(4)ノックインマウス海馬領域の電子顕微鏡観察では、野生型とほぼ同様な組織構造が観察された。(5)以上の結果は、PDZドメイン結合がPSD-95を安定にPSDに局在させるために重要であり、PSD-95を欠損した場合にはSAP102がその代わりの足場機能を果たすことを示している。また、NMDA受容体とPSD-95のPDZドメインを介した直接結合は、LTD誘導には必要でないが、正常な可塑性誘導には必須であることを示唆している。
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