研究概要 |
これまで研究の主体としてきたN-Shcと相互作用し、NMDA受容体やTrk受容体からのシグナル伝達に関係すると目されるGrit/RICSの遺伝子欠損マウスを東大分生研から移入し交配を続け、N-ShcとのダブルKOマウスの作成をした。顕著な異常症状はなく、神経細胞の培養などで比較を進めている。一方、N-Shc-Grit/RICSからアクチン骨格制御への要となるHomer/Cupidinについて、他の関連分子との機能連関による神経樹状突起スパインの形態制御についてとりまとめ論文公表した(Shiraishi-Yamaguchi et al.,2009)。N-Shcが媒介する神経栄養因子BDNFの転写誘導に関して、NRSF/RESTによる制御機構をとりまとめ論文公表した(Haraet al.,2009)。当初、本研究の主目的ではなかったが、研究を進める過程で、これまで見てきた海馬での神経可塑性に加え、小脳での平行線維-プルキンエ細胞シナプスでの長期増強(LTP)の観察か連携研究者との共同で可能となった。このシステムで老若のマウスの小脳の機能可塑性を比較検討したところ、老齢動物で劇的か低下がみられた。興味深いことに、若齢動物でも小脳スライスを事前に酸化処理しておくと、可塑性は低下した。老化過程での酸化ストレスの蓄積による小脳機能の低下が結論づけられた。さらに、この可塑性は一酸化窒素(NO)による活性化が必須であることがわかっていたので、NOシグナルと酸化ストレスの関係を調べた。すると、酸化シグナルはまさにNOによる小脳蛋白質のCys残基のS-ニトロシル化をブロックすることがわかった。すなわち、若い動物ではNOによるCysのS-ニトロシル化を介して神経可塑性を発揮できるが、老齢動物では酸化ストレスの蓄積のため、このS-ニトロシル化がうまく進まないことが、老化動物における神経可塑性の低下を来す、と結論づけられた。論文をとりまとめ、さく最近受理された(Kakizawa et al,2010,印刷中)。最近注目をあびるようになった寿命関連遺伝子であるSIRTについて、SIRT2と同じくチューブリンの脱アセチル化酵素であるHDAC6の機能性に着目し、特に老化細胞で生じやすい蛋白質凝集プロセスへの関与を検討した。その結果、HDAC6はPoly Qを使ったモデル系で蛋白凝集を促進する結果を得た(Shibazaki et al.,投稿準備中)。最後に、長崎を中心に日韓の老化研究ネットワークの連携を促進すべく合同シンポジウムを開催し、その報告をとりまとめ老化の専門誌にて公表した(Shimokawa et al.,2009)。
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