成体脳において脳室下帯で産生された新生ニューロンは嗅球へ移動しているが、脳傷害時には、その一部が傷害部に移動しニューロンを再生する。この移動制御機構について以下の解析を行った。 1)脳梗塞後の再生過程におけるSlit-Roboシグナルの機能 我々はSlitノックアウト(KO)マウスを用い、新生ニューロンの嗅球への移動がSlit-Roboシグナルにより制御されていることを明らかにしてきた。今年度は、中大脳動脈閉塞術による線条体梗塞モデルを用い、梗塞部への新生ニューロンの移動におけるSlit-Roboシグナルの機能を解析した。KOマウスでは、梗塞巣への新生ニューロンの移動が抑制され、移動形態、血管や反応性アストロサイトとの相互関係に異常が見られた。これらから、Slit-Roboシグナルが傷害脳のニューロン再生過程にも関与することが明らかになった。 2)新生ニューロンの再生過程における血管の機能 線条体梗塞モデルで、再生過程の新生ニューロンの多くは血管に沿って存在するが、その役割は明らかになっていない。我々は、増殖抑制剤であるAra-Cの持続投与により脳室下帯で産生される新生ニューロンを完全に除去した後、投与を中止し、その再生過程を解析した。新生ニューロンが血管近傍に集中して分布する一方、その前駆細胞では血管との関連性がやや低かった。これらから、血管構造の新生ニューロンの移動過程における重要性が示唆された。 3)脳梗塞後の霊長類脳の再生過程 中大脳動脈閉塞術により線条体に梗塞巣を形成させ、BrdUにより新生細胞を標識したコモンマーモセット脳の組織学的解析を行った。術後2ヶ月の梗塞線条体には移動形態の新生ニューロンが多数分布し、その一部は梗塞巣付近で成熟ニューロンへと分化していた。これらから、霊長類脳においても、傷害時には新生ニューロンが移動方向を変化させ、脳の修復に関与することが示唆された。
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