研究概要 |
平成20年度においては、1)Dok-7/MuSKシグナルによる神経筋シナプスの形成機構をより深く理解する為に、Dok-7およびMuSKと相互作用する因子の探索を行った。その結果、Dok-7がCrkIIと呼ばれる細胞内アダプター分子と相互作用することを発見した(Hamuro et al. J. Biol. Chem.2008)。一方、MuSKと相互作用する分子として、Lrp4 を同定した。両者の結合の生物学的意義を解明する為に、目下機能解析を進めている。 2)筋特異的受容体型チロシンキナーゼMuSKが、agrinのような細胞外因子(リガンド)に依存せずに活性化(自己リン酸化)に至る分子プロセスを明らかにするために、各種実験を行った。その結果、筋組織中におけるDok-7の過剰発現が神経筋シナプスの過形成を誘導することを証明し、さらには、試験管内において、Dok-7が直接MuSKチロシンキナーゼを活性化しうることを証明した(Inoue et al. Sci, Signal.2009)。 本研究成果は、長らくその実体が不明であった MuSK の活性化機構に関わる筋自律因子が Dok-7 であることを強く指示するとともに、CrkIIやLrp4といった新たなシグナル分子が神経筋シナプスの形成機構に関与することを示唆するものであり、その学術的な意義は高い。また、Dok-7遺伝子に関するトランスジェニックマウスの解析結果は、将来的な筋無力症に関する遺伝子治療の可能性を示唆しており、今後の重要な研究課題の礎となりうる。
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