MSM/Ms及びJF1/Ms系統は、我が国固有のモロシヌス亜種から樹立された系統で、西ヨーロッパ産のドメスティカス亜種から派生した標準的近交系統とは顕著な遺伝子多型を示し、その表現型も、代謝、行動、薬剤感受性、発がん抵抗性などの点で大きく異なる。我々は、これらの系統で遺伝子導入や遺伝子破壊を可能にするためES細胞を樹立、昨年度は、MSM/Msから1系統(MQ1/MSM-1)、JF1/Msから2系統のES細胞株から生殖系列キメラが得られることを証明した。今年度は、生殖系列キメラ作製効率の最も成績の良かったMo1/MSM-1を用い、遺伝子トラップおよびがん遺伝子のトランスジェニックマウス作製を行った。遺伝子トラップクローンは、合計142クローンを単離、サザンプロットとPCRで100クローンがシングルコピー挿入で必要な領域が保存されていることを確認した。順次5' RACEやプラスミドレスキューにてトラップされた遺伝子を同定しており、現在までに38クローンについて結果が得られている。また、MSM/Ms系統における発がん抵抗性を検討するため、がん遺伝子であるc-Maf遺伝子を用いトランスジェニックマウス作製を行った。ヒトCD2プロモーターの下流にc-Mafを接続したトランスジーンに、ES細胞での選択のため、ネオマイシン耐性造伝子を組み込み、Mo1/MSM-1に導入、48クローンを単離した。そのうち、サザンブロットとPCRでプロモーターの5'末端まで欠失せずに保たれているクローン4つを同定した。これらのクローンを用いてキメラマウスを作製、2クローンよりマウスラインを樹立できた。胸腺での発現をリアルタイムPCRで調べたところ、両方のラインで導入したc-Maf遺伝子が過剰発現されていることを確認した。今後、これらのマウスの発ガン状況を調べる予定である。
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