研究概要 |
レンチウイルスで遺伝子導入した精子幹細胞からのトランスジェニックラット作製(篠原・平林)精子幹細胞からのノックアウト動物作製には、1)試験管内での精子幹細胞の遺伝子改変、2)遺伝子改変された幹細胞からの精子、子孫の作製が必要となる。昨年度我々はラット精子幹細胞をマウスで発生させ、そこから得た精子で子孫作製に成功したことを報告した(PNAS103,13624(2006))。今年はこの2)のステップをさらに進め、遺伝子改変した精子幹細胞からの子孫作製をマウスへの異種移植法を用いて行った。今回は特にES細胞の遺伝子破壊によく利用されているレトロウイルス、レンチウイルスベクターを用いた検討を行った。生後10日から14日のSDラットの精巣をトリプシン、コラゲナーゼによる酵素処理によりバラバラにした細胞とし、ここにenhanced green fluorescence protein(EGFP)を発現するレトロウイルスもしくはレンチウイルスベクターを感染させた。ウイルス感染した培養細胞はブスルファン処理により不妊になったヌードマウスの精巣内に移植した。移植後、5ヶ月目に精巣をバラバラにし、EGFPを発現するラット生殖細胞を回収した。回収された細胞のうち、round spermatids,spermatozoaを用いて合計742個の卵細胞に顕微授精を行ったところ、31匹の産仔を得た。このうち15匹がEGFPを発現するトランスジェニックラットであった。興味深いことにレトロウイルスを用いた場合には産仔を得ることはできたが(6匹/312個の卵子)、トランスジェニック動物を得ることができなかった。これはレンチウイルスの方が効率よく遺伝子改変に利用できることを示している(25匹/430個の卵子、15匹のトランスジェニック産仔)。この作製効率は通常の前核へのDNA注入法を用いた場合に比較旨して、異種移植法を用いた場合の方が約5-10倍の効率でトランスジェニックラットの作製ができることにを示しており(10.3%vs.1-2%)、精子幹細胞を利用した場合の利点が明らかになった。
|