研究概要 |
生体軟組織内部の残留応力分布ならびに大変形領域までの応力・ひずみ分布を細胞レベルの分解能で計測する手法の確立を目的とし,3年間に亙る研究を進めている。対象は,我々がデータを多く蓄積する胸大動脈組織とし,その生理状態における微視的応力・ひずみ分布を明らかにすることを目指している。研究初年度の本年度は,まず薄切試料切断用のレーザマイクロダイセクション装置を試作した。即ちUVパルスレーザを組織に照射することで,温度上昇を抑えつつ余計な外力を加えずに試料を切断できる装置を試作した。355nmのUVパルスレーザを繰返周波数30kHz,出力70mWで照射することで厚さ100μm程度の組織を即時に切断することが可能となった。ただし,特に厚い組織の場合に切断に伴う気泡の発生による組織の動揺が問題となることが判明し,今後,この問題を解決することが課題となった。次に試料薄切の際に不可避である凍結・解凍操作で試料内部の平滑筋細胞が死なない条件を探索した。即ち試料に通常の凍結・解凍操作を行うと組織内の細胞は殆ど死んでしまう。これでは細胞が生きている状態の計測が行えない。そこで,単離細胞の凍結保存時に用いられるDMSOなどの細胞凍結保護剤を使用することで,凍結によっても細胞が死なない条件を探索した結果,厚さ1mmのラット胸大動脈リング状試料の場合,10%のDMSO+10%FBSに15分間浸漬した後,凍結し,切断後,解凍することにより組織の収縮量が新鮮な組織とほぼ変わらない状態に保てることを見出した。
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