研究概要 |
生体軟組織内部の残留応力分布ならびに大変形領域までの力学特性を細胞レベルの分解能で計測する手法を確立して実際の組組織内の生理状態における微視的応力・ひずみ分布を可能な限り詳しく明らかにすることを目的として,3年間に亙る研究を進めた.研究最終年度の本年度は,まず,顕微鏡ステージ上に設置可能な試料槽付き電動引張スデージを試作し,引張に伴う組織の変形を視野が大幅にずれることなく観察できるようにした.これを用いて引張に伴う薄切組織内の変形を詳しく調べたところ,1)弾性板は組織に加えられたマクロな伸長比が1.2程度でほぼ真っ直ぐになること,2)弾性板の蛇行に沿った長さの変化を局所毎に求めたところ,1本の弾性板内でも部位によってひずみに2倍以上の差があること,一方,平滑筋層については平滑筋細胞核の移動や変形の詳細な観察から,3)個々の平滑筋細胞が回転や剪断などの複雑な変形をしていること,4)同一の平滑筋層内でも引張に伴うひずみに2倍以上の差があること,などが明らかとなった.次にレーザアブレーションによる組織の切断については,気泡が発生しても5分程度放置することで気泡が消滅することが判ったため,この方法で組織にレーザをスポット照射して弾性阪を切断した後の断端間距離の分布を調べた.無魚荷状態でレーザ照射した場合と比べて,マクロな伸長比が例えばλ=1.4の場合,弾性板の断端同士の間隔は1.5~3倍になることが判った.この間隔は弾性板に作用する引張力と良く相関すると考えられるので,弾性板に加わる力にも2倍程度の差が有ると予想される.以上より,正常血管組織内の局所的な力学環境には部位により少なくとも2倍程度の差がある可能陸が示唆された.
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