底面に内径2μm以下の微小孔を多数有する細胞培養ウェルを製作した。製作手順は以下の通りである。プラズマCVDによりシリコン基板に膜厚1μmのシリコン窒化膜を成膜し、紫外線露光とプラズマエッチングによりこのシリコン窒化膜に内径2μm以下の微小孔を多数形成した。次に、結晶異方性エッチングによりシリコン基板を貫通させてウェルを形成し、シリコン窒化膜からなる透明な自立膜で一辺300μm程度のウェル底面を構築した。これにより、細胞の培養状態を倒立顕微鏡により観察可能な微小な細胞培養ウェルを実現した。次に、シリコーン樹脂で形成した薬剤導入用マイクロ流路を製作し、これを培養ウェルに底面裏側から接合した。これにより、マイクロ流路から導入した薬剤を培養ウェル底面の微小孔よりウェル内に拡散放出させ、培養細胞への薬剤刺激を行うデバイスシステムを実現した。そして、蛍光色素(ローダミンB)を用いた実験により微小孔を通じた薬剤放出を確認した後、培養ウェル内に神経幹細胞を播種してニューロスフェア(神経幹細胞の球状凝集塊)を形成させることに成功した。さらに、分化誘導因子であるFBS(牛胎児血清)をマイクロ流路から導入することにより、微小孔を通じたニューロスフェアへの薬剤刺激を実施し、FBS濃度の違いにより分化速度に違いが現れることを確認した。また、マイクロ流路中に3層流から成るシースフローを形成し、各層の流量を制御することにより、微小孔からの薬剤放出の位置や時間を制御する基礎的な実験を行った。
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