金ナノロッドは近赤外域に強い吸収をもち、吸収した光を熱に変換するフォトサーマル効果をもつ。一方、近赤外光は組織への透過性が高い。したがって、金ナノロッドを病変部位に集積させることができれば、病巣の近赤外光イメージングに加え、フォトサーマル治療が可能になる。前年度まで、金ナノロッドのマウス体内における吸収モニタリングや担がんマウスを対象にしたフォトサーマル治療について検討を行ってきた。また、金ナノロッド表面に温度感受性ポリマー(ポリN-イソプロピルアクリルアミド)ゲルを修飾し、近赤外光照射した組織に金が集積するシステムを開発した。しかし、この温度感受性ポリマーの相転移温度は体温以下であり、照射部位以外の組織にも分布した。そこで本年度は相転移温度が体温より高いポリマーを設計し、それを金ナノロッド表面に修飾した。具体的にはゲル重合時にアクリルアミドモノマーを加え、その結果、相転移温度は40℃付近まで上昇した。このゲル修飾金ナノロッドの静脈投与後のマウス体内分布を評価した結果、長い血中滞留性が観測され、体温において、温度感受性ポリマーゲルが相転移せず、親水性を保持していることが示された。さらに、このゲル修飾金ナノロッドを担がんマウスに静脈投与し、がん部位に近赤外レーザー光を照射した結果、照射したがんに有意な金の蓄積が認められた。このように、マウス体内において、光照射した組織に選択的に集積する金ナノロッドの開発に成功した。フォトサーマル効果による発熱で、腫瘍の増殖抑制の実現可能性が示された。
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