組織工学的な応用を目指し、細胞表面の改質を行うことで細胞接着挙動や集積化の制御を可能にする新規光反応性ポリマーツールの合成と評価を行った。その基本骨格となる高分子材料として、生体親和性が高いタンパク質である牛血清アルブミン(BSA)を選択した。次に、特定の細胞だけを操作するために、細胞接着性ペプチドGRGDSをBSAに固定化した。さらに、この結合を強固なものとするために、レセプターに結合したBSAと細胞表面との間に光反応によって共有結合を生じさせるデザインを施した。具体的には、BSA上のアミノ基に光反応性部位であるN-5-azido-2-nitrobenzoyloxy succinimide(ANB-NOS)、蛍光物質であるfluorescein isothiocyanate(FITC)、さらにインテグリンレセプターと結合する接着部位を有するペプチド(GRGDS)を導入した。まず、BSAにANB-NOSとFITCを導入したポリマーツールをポリスチレン基板上に滴下して紫外光を照射したところ、光を照射した部分のみにポリマーツールを固定化することができた。これにより光反応性を確認することができた。次に、ポリマーツールにDTBPとGRGDSを導入してPhoto-reactive BSA-GRGDSを作製し、正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)と混合した後に蛍光観察した。レセプターをGRGDSによってブロックした細胞の結果とGRGDSを持たないPhoto-reactive BSAを用いた結果と比較して、より多くのPhoto-reactive BSA-GRGDSが細胞表層に結合していることを見出した。また、U型マイクロプレート中で細胞凝集体を作製した後に紫外光を照射したところ、Photo-reactive BSA-GRGDSを添加した場合に凝集体がより速く崩壊する傾向が見られた。これはBSAが個々の細胞に強固に結合することで細胞間の立体反発がより強く働いたためであると考えている。以上、細胞接着挙動や集積化の制御を可能にする新規光反応性ポリマーツールのプロトタイプを合成することができた。
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