研究概要 |
本年度は,角膜剛性と内圧に起因した剛性との分離化について,臨床実験に基づき,特に角膜形状変化に焦点を絞り解析作業を行った.非接触眼圧計は空気噴流により角膜に印加力を与えて角膜を変形させ,その圧平面積が広くなった時刻から眼圧値を推定しているが,角膜の性質(剛性等)に個人差があった場合,眼圧値が正しく測定できない危険性がある.この角膜変形の個人差に着目し,非接触眼圧計による空気噴流印加時の角膜変形の度合いを,新たに曲率による評価指標によって表現した.具体的には,高速度カメラで得られた印加時の角膜挙動の映像に画像処理を施すことにより角膜表面のエッジを取得し,そのエッジを最小二乗法により求められた回帰曲線で近似した.関数化されたエッジの曲率と眼圧値との相関を調べることで,角膜形状変化の個人差が眼圧測定にどのように影響するのかを考察した. 眼圧値と角膜変形曲率の相関を調べた結果,角膜の老化による性質の変化も考慮して,総被験者数54名のうち,20代の若年層と50歳以上の老年層の二つに分類して解析した.全体として眼圧値と曲率との相関係数を求めると,-0.3108と弱い負の相関が得られた.この結果は,眼圧が低いほうが角膜が変形しやすいという直感的な予想と一致する.また,若年層と老年層の曲率の平均値を比べると,老年層の曲率平均値の方が若干大きくなっていることがわかった.このことから,老年層の角膜の張りが失われていることが考えられる.この場合,同じ力で印加しても若年層に比べ角膜が変形しやすく,眼圧を過小評価してしまう危険性があるという知見を得ることができた.
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