脳卒中発症後6ケ月以上を経過した片麻痺患者の非麻痺側下肢にシミュレーション用下腿義足を適用した歩行訓練を実施し、その有用性について、トレッドミル歩行訓練との比較を試みた。両群ともに明らかな高次脳機能障害を持たず、独歩可能な患者各8名(義足群;平均年齢60歳、トレッドミル群:平均年齢58歳)を対象とした。訓練の試行回数は7-16回とし、義足・トレッドミルに慣れるまでの期間をそれぞれ設けて、後半の5回は理学療法士による歩容改善のための運動学習訓練を実施した。訓練前および訓練を終えて2日以上経過後(保持テスト)の床反力前後成分、歩長、歩行速度の変化について検討を加えた。その結果、義足群では訓練前に比べて麻痺側制動力(P<0.01)ならびに非麻痺側推進力(P<0.05)が増加し、麻痺側歩長が長くなって(P<0.05)、10m最大歩行速度は有意に改善した(P<0.01)。一方、トレッドミル群では麻痺側歩長が延長して最大歩行速度が改善する傾向を示したが、床反力前後成分を含めて、運動学的な変化を確認することはできなかった。以上から、非麻痺側下肢にシミュレーション用下腿義足を適用した歩行訓練は、立脚初期に麻痺側下肢へ荷重する能力を高め、その結果として、非麻痺側下肢による推進力の効果的な利用を可能にしたと考えられた。義足を用いた歩行訓練は、麻痺側下肢の使用を課題特異的に促すことによって、片麻痺患者の歩行パターンを力学的に変えられる可能性が示唆された。麻痺側下肢の不使用を、義足を用いた歩行訓練による潜在学習によって、課題特異的学習効果が得られるものと推察された。 以上の経験を踏まえて、シミュレーション用下腿義足を適用した歩行訓練に必要な運動療法の手順や留意点をマニュアル化し、これによって他施設(淵野辺総合病院)での外来歩行訓練を実施中である。
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